煙草

 

肌に張り付く暑さと

夜のしんとした冷たさと

その中に消えていく貴方の煙

ふわふわと漂って

「ああ、私も貴方に吹かれたい」

なんて柄にもなく思ってみる

 

どうしていいかわからなくて

車を挟んで貴方の反対側に立って

煙草を挟む貴方の指を見ている

さっきまでベースを弾いていた指

さっきまで運転していた指

長くて少し節くれた指が

器用に煙草を口元へと運ぶ

 

なんとなく恥ずかしくなって

ベースを弾いていた貴方の真似をして

私はくるりと回ってみせた

今思うと恥ずかしい

でもあの時は

回って恥ずかしさを振り払いたかった

夢のようだった

 

朝が来るのが怖かった

貴方と離れる時間が来るのが

でも寂しいなんて言えなくて

貴方の明日の予定を気にして見たりした

 

あの時貴方は何を思っていたのだろう

貴方はどうして私を誘ったのだろう

一時の気の迷いだろうか

もしかしたら少し好いてくれていたのだろうか

本当の想いは分からないまま

 

あの日の煙草の煙に紛れて

空に消えてしまった